ゲーム理論と戦略的行動

池田信夫氏の言う「戦略的行動」つう言葉の使い方がおかしい気がする。

[中級経済学事典] 長期的関係と戦略的行動
日本人は戦略的行動が苦手だとよくいわれるが、その原因はゲーム理論でよく知られるフォーク定理で説明できる。
(中略)
今の日本では、このようにゲームの規則が長期的関係から戦略的行動に切り替えられる根本的な変化が起こっているのだが、それに気づいている人は少ない。

たぶん池田信夫氏は「何が得かを自分で考えずに昔からの長期的関係に従って漫然と行動するような人」が嫌いで、それと反対の人たち、つまり「損得を自分で考えて行動する」ことを戦略的行動と呼んでるんだと思う。
しかし私は根がウォーゲーマーで、ウォーゲーマーてのは戦術級/作戦級/戦略級という3レベルで思考するのを当然と考える人間なので、

  • 戦術的行動 == 短期的損得を最適化するような行動
  • 戦略的行動 == 長期的損得を最適化するような行動

という風に捉える。
池田信夫氏のゲーム理論的説明に話を戻すと、「囚人のジレンマで言うところの裏切り行動に走る方が個人の利得が大きい時代になった」って言ってるんだよね。そして「裏切った方が得だから裏切ろう」と考えることを戦略的行動と呼んでる。
それでいいんか? 囚人のジレンマで皆が裏切りに走ったら全体の利得は下がるんだよ? それって縮小均衡だそ? 私から見ると、「戦術的には正しいけど、戦略的には未来の無い判断」にしか見えない。
今重要なのは、「ゲームの規則が変わった」とか言って現状のCとDの値を無批判に受け入れることじゃなくて、「個人の利得と全体の利得が一致するようCと Dの値を戦略的にデザインする制度設計」の方だろ。裏切りは社会全体の利得を下げるという意味で外部不経済なんだから、その分まで市場に内部化させて「裏切りが損になる」ような制度設計を行うべき。
以上がこのエントリの本旨だけど、池田信夫氏の元記事について細かいところまで目を向けると、いろいろとおかしなところも目に付く。「長期的関係は減るのでδは下がる」っておかしいだろ。長期的関係が減ることに影響されるのは「同じ相手とゲームをする確率」であって、「ゲームの続く確率」ではない。もし両者を同一と見なして雇用関係に適用するなら、一度裏切り(解雇)が発生すればゲーム終了だから、そもそも引き金戦略が有り得ない。なんて言うか、かなり変だぞ? 「長期的関係に従って漫然と行動するだけじゃ駄目だ」っつう池田氏の主張には私も賛成しないでも無いんだけど、その主張の裏づけにゲーム理論を引っ張ってきて戦略的云々と言うのは、ロジックとしておかしいと思うなあ。