ケヴィン・ケナー

津田ホールで開催された ケヴィン・ケナー (+ラフィット姉) のピアノコンサート聴いてきました。前半ショパンをソロで、後半ピアソラのタンゴをデュオで。「コンサート」て語は「合奏」という意味なので、ピアノソロでコンサートと言うのは本来おかしいのだけど(リサイタルと言うべき)、今回はデュオもあったので、コンサートでもまあええぢゃろ。

このケヴィン・ケナーと言う人は、1990年のショパン国際コンクールで1位無しの2位を獲得した人だそおです。85年にブーニンが優勝したのの次の回。なぜ2位になったのかと言うと、このコンクールの特徴であるコンツェルト部門で失敗したんだそうな。ケナー自身があまりに完璧主義者過ぎて、オーケストラの指揮者と折り合いが上手く行かず、失点が大きかったので、他が素晴らしかったにも関わらず、ということらしい。このコンクールで優勝するには、指揮者と反りを合わせる人間性も必要なんだそうな。2005年優勝のブレハッチ君はさすがだったと言うことか。今回のコンサートのチラシで「ショパンコンクール最高位」と書いてあるのはそういう事情があったためだな。
ショパンの方は、一音一音をはっきり弾く人だと思った。特にノクターン8番(Op27-2)が顕著で、これ私の大好きな曲なのでポリーニの27-2を何度も何度も聞いてたのだけど、ポリーニ翁の流麗さの対極と言っても良いかと。ブレハッチ君にもそういう傾向があるけど(ブレハッチ君の27-2は聞いたこと無いけど、英雄ポロネーズブレハッチ君とポリーニ翁で聞き比べるとその差がわかる)、ケナーさんはもっと極端。これが「ショパンらしさ」なんかなあ。ほら、ショパンコンクールで上位に来るには、ショパンを再現しないといかんらしいから。そういや、こないだ last.fm で、ポーランド人から「お前はルービンシュタイン好きのようだが、ブレハッチ英雄ポロネーズを聞け。彼は本当の意味でショパンだ」つうメッセージが送られてきました。いや、私もブレハッチ君の英ポロさんざん聞いてるんだけど、楽曲データが日本語なので、たぶんポーランドの人には読めんかったんだろうなあ。
休憩を挟んで第二部はラフィット姉妹の姉の方とピアノ二台のデュオでピアソラのタンゴをいっぱい演奏してくれたんですが、こっちがやたら楽しくて良かった。18年前には指揮者と折り合いが悪くてコンクール1位を逃したケナーさんですが、年を経て丸くなったのか、今回はラフィット姉とぴったり息の合ったデュオを。でも考えてみればピアノデュオを生で観たのって今回が初めてだったんだけど、面白いねこれ。息を合わせるためにお互い視線を交し合うとか。タンゴはリズムの緩急がかなりあるので、息を合わせるのが重要ぢゃもんなあ。ドヴォルザークがまだ貧乏だった頃、ブラームスが「ピアノデュオやトリオ曲を書くと売れるぞ」とアドバイスしたことがあったんだそうで、てのも19世紀当時デュオやトリオはブルジョア層の子女が娯楽用に弾く曲としてソロ曲より需要が高かったんだそおです。てな話を読んだ時は実感が沸かなかったんだけど、今回のデュオを見て、なるほどこれは人気出るぢゃろ、とか思った。
あと、今回使われたピアノはヤマハでした。いや、決してヤマハが駄目と言うわけではないんですが、プログラムの裏表紙にヤマハの広告が載ってたんですよ。今回使ったのと同じグランドピアノの広告なんだけど、その広告に1100万円っつう値段までわざわざ明記してある。「ヤマハってスタインウェイとかに比べて格下と思ってる人もいるかもしれないけど高級品なんです」と必死にアピールしてる感がひしひしと伝わってきて、なんとも言えぬ感慨があったよ。