ところでビルガードって誰よ

GHQ洗脳説に出てくるビルガードなる人物が日本人を洗脳したのかどうかって話は結局「よくわかんねえ」が私の結論なんですが、調べてみてどこまでわかったかぐらいはメモとして遺しときますね。
まずビルガードじゃなくてヒルガードだってことがわかった。心理学のあらゆる分野を網羅し、心理学専攻学生でこの本を知らなきゃモグリだって言われる ヒルガードの心理学 の、あの E. R. Hilgard ぢゃった。
このヒルガードが戦後すぐ The United States Education Mission to Japan として来日したのは記録に残ってる事実です。ただし、何をアドバイスして何が実行されたかは信頼性のある資料が見当たらん。ネット上に出回ってる情報はどれも 洗脳支配ー日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて つう本を根拠にしてるらしいんですが、その本の該当箇所の抜粋を読む限りでは

ヒルガード教授とミルトン・エリクソン博士は、まさに20世紀を代表する催眠と洗脳の専門家で、言ってみればその二人の力が間接的にオウム脱洗脳の成功の裏にはあったわけです。ところが、ヒルガード教授が没した2001年に、スタンフォード大学が彼の追悼文を発表しました。それをたまたま読んだ私は、驚いてしまいました。そこには、ヒルガード教授の功績のひとつとして、「戦後日本の教育の非軍事化のため」に GHQに呼ばれて来日したと書いてあったからです。
催眠学者が、なぜ日本の非軍事化のための教育に一役買わなければならなかったのでしょうか。私は、即座に理解しました。

とあって、どうも「ヒルガードが催眠と洗脳についての専門家」「そのヒルガードがGHQに呼ばれて来日した」という二点だけが根拠にされてるみたいだぞ。ヒルガードって洗脳や催眠に限らず心理学全般をカバーする大御所学者なんだがのう。彼が洗脳の専門家として有名になったのは50年代以降のことだし。おまけにこの本のamazonレビューでは「書かれた内容が小説なのか?それとも現実(リアル)なのかが判別が付かない」「参考文献が書いてないので、本書で事実として扱っていることがどこまでが事実なのかは分からないところがあります」とか書かれてる。小説て…
ヒルガードは1946年に The Enigma of Japanese Friendliness っつう論文を書き、日本人がなぜこんなに進駐軍に友好的なのかという問題を分析してます。ヒルガードの洗脳のせいで日本人がアメリカべったりになったんじゃなくて、日本人はもともとアメリカに友好的だったと見るのが正解だと私は思うがなあ。そしてそれをアメリカ人自身が驚いてると。ちなみにこの論文は欧米ではよく知られてて、そのタイトルをもじってつけたのがカレル・ヴァン・ウォルフレンの The Enigma of Japanese Power -- 邦題 日本権力構造の謎なんだそうな。
この Mission はマッカーサー宛に報告書を出し、それが Report of the United States Education Mission to Japan: Submitted to the Supreme Commander for the Allied Powers として出版されてるとこまではわかったんだけど、日本では入手困難っぽいなあ。仕方が無いので 実際にアメリカの下院図書館でこの報告書を読んだ人の日記 を読みますと、どうも漢字廃止を提言してたらしい。今の日本を見る限り、その提言は実現しなかったようぢゃの。id:KT49さんが書いてる「おせっかいな人たち」て言葉がこのミッションの姿勢を体現してると思われる。ああ、欧米人ってほんとにおせっかいだからなあ。キリスト教を布教してアフリカ人の文化を破壊したのも、本人達は「キリスト教の救いを知らないままいるなんて可哀相」と本気で思ってのことだったんだよな。
しかし同時に、この報告書については 実はヒルガードでなく南原繁が基本案を書いた っつう指摘も見つかった。南原繁と言えば中曽根康弘とともに昭和天皇退位を主張したけどGHQが結局昭和天皇続投を決めたので泣き言をこぼした曲学阿世の徒。この辺をつつくといろいろ面白そうではある。