人類をデバッグする

デバッグ不能な遺伝子コード。「それは基本仕様です」 (id:filinion)
呪術(と、呪術的疑似科学)に“説得力”を感じてしまうのは「人間の基本仕様」だ、ということでしょうか。

人類がなぜそういう風に進化したのかと言うと、環境的な淘汰圧があったためと考えられます。つまり、人類が進化してきた数十万年の歴史のほとんどを通じて、人類は以下のような制約に縛られてきたわけです。

  • エネルギー不足。人類はいつも腹を空かせた状態にあり、カロリー消費を抑えることが重要だった。人間の器官の中で単位重量辺りのカロリー消費量が最も大きいのは大脳で、ここのブドウ糖消費を抑えるために、思考するエネルギーの節約は切実な問題だった。
  • 時間不足。人類はいつも外敵の襲撃や仲間同士の競争に晒されており、短い時間で決断して行動する必要があった。ゆっくり考え込んでいる暇など無かった。

この二つの制約があったために、情報が十分でない状況でも「類似ないし何となく近いと思われる情報」を引っ張ってきて、そこから検証無しで類推することによって判断してしまう的な心理メカニズムが、じっくり考えて確かな結論を出そう的な心理メカニズムよりも、ずっと強く進化したわけです。ちなみに私の場合、どうもそういう素早く判断するメカニズムが欠けているらしくて、社会生活上いろいろ不利に働いている、てのは以前書いたとおり。
「ネットの情報を鵜呑みにするやつはダメ、複数ソースの情報を照らし合わせて判断できないようではネットリテラシーが無い」なんてことはよく言われますけど、それって人間にビルトインされてる上記の心理と真っ向から反している、てのがおわかりかと思います。人類はもともとネットの怪情報に騙されるよう遺伝子レベルでプログラムされている と言っても過言でないかと。
しかし、環境が変わればそれに適応して人類も進化していくと期待されます。エネルギーと時間の制約から解き放たれた状態が数十万年続けば、人類のこのビルトインメカニズムも新しい形質でオーバーライドされるんじゃないでしょうかね。ただ、21世紀の社会ってエネルギー不足からはほとんど解放されてると思いますが、時間不足の制約から解放されてるんだろうかというのはかなり疑問。「人より早くこのネタを blog や掲示板に書こう」とかいう心理が、ネット住人の正常な判断力を鈍らせ、呪術的思考の再来を招いていたりせんでしょうかね。
数十万年も待てない、あるいは自然に任せておくのは不安だ、ということなら、それを解決する方法もいろいろあると思います。例えば

  • 薬学的方法: 中枢神経系・神経伝達物質に作用する薬物によって人間の心理メカニズムに影響を与える。
  • 電子工学的方法: 脳神経と電子機器を直接インタフェースさせ、脳の機能の一部を電子機器によって代替させる。
  • 遺伝子工学的方法: 脳の発生構造に手を加える。

この中では電子工学的方法が一番面白そうに思います。かなり自由にプログラムできそうだし。まあうまく行くまでにはいろいろ紆余曲折あるとは思いますが。
あと一応念のため補足しとくと、人間界の全ての差別が「基本仕様」だけで片付けられるわけでは無いという点にも注意しませう。基本仕様を悪用して利益を貪ろうとする人は古今東西枚挙に暇が無いわけですが、そういう人が利益を貪るための社会制度が作られ、一部の人がその制度の犠牲になっている、という例も多々あります。でもまあ、「そういう間違った社会制度に疑問を抱かないのも人間の基本仕様だ」と言われると、確かにそうかもしれんな。