ルーブル美術館展

私の知り合いでルーブル美術館展に行きそうな人って id:violet217id:pianocktail だけど、二人とも水曜日に行ってきていたのだな。私は一日遅れて木曜日、美食ツアーの帰りに行って来ました。
パリのルーブル美術館と言えばモナリザミロのビーナスが名高いんですが、今回のルーブル美術館展はその辺ではなく、18世紀フランスの美術工芸品の展示です。まあちょっとマイナー目ではある。
世界史のレッスン: 17世紀のフランスは三十年戦争で宿敵ハプスブルク家を蹴落とし、その後の太陽王ルイ14世による絶対王政の下でヨーロッパ最強国家へとのし上がります。しかし18世紀に入るとスペイン継承戦争のあたりからケチがつき始め、イギリスの台頭の前にやむなくハプスブルク家と手を結ぶけど(ここで後述のポンパドゥール夫人が活躍)、七年戦争大英帝国に逆転されてしまうと。大国がゆっくり没落していく過程というのは爛熟期を迎えた文化の華が咲き誇ると相場が決まってて、今の日本とかまさにそういう感じだよなと思わんでもないですが、その時期の美術品の数々が今回のメインです。フランス革命でひっくり返るまでの時期ですね。
18世紀前半のルイ15世時代に流行った流麗華美なロココ調と、それに対抗して起こった新古典派の対比が主な展示の軸でした。燭台とかタバコ入れとかみたいな家具・小物系が中心。「塩入れを何故そこまで豪華にする必要が!」的なところがフランス宮廷ってやつですな。そりゃまあ革命も起きるわな。人物的には、ルイ15世の愛妾として政治・外交に大きな影響力を持っていたポンパドゥール夫人と、ルイ16世妃として有名なマリー・アントワネットの2人にスポットを当てて、この二人に関連する品が多く展示されてました。絵画ではブーシェのポンパドゥール夫人が目玉かな。

ルーブル美術館展 (id:violet217)
どうでもいいけどマリーアントワネットって美人美人いわれてるわりには肖像画みるとそうでもない気がして(キレイなんだけど、そこまで?っていう)(王妃さまだからおべっかはあったのかもだけど)(個人的には彼女のお母さんであるマリア・テレジアの少女時代の肖像がやばい!超美少女!)

「欠点もありのままに描いたので不評だった」って解説のついてるマリーアントワネットの肖像画にはわははと思ってしまった。肖像画ってこの時代の重要なメディアだったんだよね。画家を雇って肖像画を描かせられる財力あるのは貴族だけだったんだけど、政治的な事情により美人でないとまずかったんぢゃろう。でも小さい頃のマリア・テレジアが類稀な美貌だったってのは本当みたいね。女帝と呼ばれるようになってからはまああれだが…
ところでバロックロココ調って、ヨーロッパで宗教戦争が荒れ狂った17世紀という時代を受けて生まれた様式だそうですな。その前には、均整と調和による永遠の秩序を目指す中世キリスト教ルネサンスの思想があって、例えば音楽でも「天体の運行をそのまま音符に書けば完璧な音楽になるんじゃないか」とか人間を超えた法則性と秩序を求める動きがありました。ちょっと前に本家で duke が書いた Fairの話 もその辺につながるんだと思う。でもそういう秩序を口実に支えられてきた中世社会の矛盾が16〜17世紀に一気に噴出してきて、ローマカトリックとか王権体制の中央集権的秩序ってどうよってことになって、まあ芸術家もいろいろ考えたんでしょう。調和や均整からわざと逸脱し、人間や自然のもっと動的な面を出すことで、印象や感情に訴えかける芸術が生まれた。調和を均整をまん丸の真珠だとすると、この新しく生まれた芸術は明らかに歪んでたので、歪んだ真珠、つまりバロックと呼ばれるように。そこからさらに華美な装飾へと発展するとロカイユ(ロココ調)。音楽だと装飾音を多用するクラブザン音楽が。
しかし考えてみるとルネサンスてのも元々は同じように中世教会体制からの人間復興を目指したものだったわけで。古典派からロマン派への動きも同じ軸。そうすると、例えば中世→ルネサンスバロック→ロマン派→印象派→現代っていう一連の変遷なんかにも、均整や調和といった中央集権的秩序から逃れるという一貫した流れがあったのかもしれん。ただし時々によって逆流もあって、例えばバロックから普遍音楽としての古典派を完成させる動きもあったと。フランスでの美術工芸だと、バロックの先へ行ったロカイユに対して、華美な装飾を排した新古典主義が起こったわけだな。同じような対立は20世紀にも若干軸を変えつつアール・ヌーヴォーvsアール・デコとして再現されるし、これからも似たようなことは起きるんぢゃろね。
ピエールエルメのルーブル美術館展限定スイーツ
ところで今回の展示はピエール・エルメ・パリも協賛してたそうで、会場では「ルーブル美術館展限定スイーツ」とか売ってました。限定フレーバーのマカロンとか、マリーアントワネット頭文字入りのボンボンショコラとか、展示品にもボンボン入れがあったからなかなか良い着眼点だと思った。直前にホテルニューオータニで食べてきたばっかだったのでパスしてしましたが。